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連載 私のオリンピック・パラリンピックの思い出

中条あやみ

第2回は、モデルや女優として活躍の場を広げる中条あやみさんにインタビュー。2011年よりモデルとして活動を始め、女優としては、映画「セトウツミ」(2016年)、「チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~」(2017年)など、多くの話題作に出演している中条さん。11月13日(金)公開の主演映画「水上のフライト」では、事故で歩けなくなったことをきっかけにカヌーに挑戦するヒロインを演じている。そんな中条さんが、映画出演を通じて知ったパラスポーツの魅力や、自身のオリンピック・パラリンピックの思い出を語る。

第二回 みんなで支え合って生きていくことの大切さ

2020/11/02


映画「水上のフライト」で中条さんが演じるのは、体育大学に通う、走り高跳びの有望選手・藤堂遥。ある日、遥は不運にも事故に遭い、下半身に麻痺を抱えて生きていくことに。家族や周囲に心を閉ざしていく遥を救ったのは、カヌーとの出会いだった…。本作でカヌーに初挑戦した中条さんが、パラリンピックに対して抱いた思いとは?

コーチの言葉で自分の中の道が広がった気がします

――まずは、カヌーのシーンについてお聞かせください。作中では見事なレースを繰り広げていますが、どれぐらい練習されたのですか?

中条あやみ(以下、中条) 撮影に入る1カ月くらい前から、大学のプールをお借りして練習を始めました。最初はレジャー用の大きいカヌーに乗って、慣れてきたところで、本格的な競技用の細いカヌーで練習をしていきました。レジャー用のカヌーは大きくて安定感があるんですけど、なかなか真っすぐに進めなくて、やっと前に進むようになったと思って競技用のカヌーに乗ったら、一瞬でひっくり返っちゃって。ひっくり返ることを“沈(ちん)する”というんですけど、心もチーンっていう感じでした(笑)。

――相当練習されたんですね。

中条 クランクイン前はそれでも数回しか練習の機会がなかったので、撮影が始まってから、待ち時間や撮影後に練習をしていました。旧中川で撮影していたんですが、例えばカヌーに乗ったまま川の中で待機するのも大変なんですよ。川の流れもあるので、バランスを保ってずっと待っているのも難しいですし、漕いでいくシーンを撮影したら戻ってこないといけない。撮影は時間が限られているので、「早く戻ってきて!」って言われているうちに、だんだん早く漕げるようになりました(笑)。

――コーチの方から「次のパリオリンピックに出られる可能性があるから、本格的にやった方がいい」と絶賛されていたそうですね。

中条 そんなに褒めてもらえると思っていなかったのでうれしいです。自分の中の道が広がった気がします。



車いすで生活している人たちの気持ちをきちんと伝えていきたい

――車いすのシーンは大変でしたか?

中条 小学生の時に車いす関連の協会の方に来ていただいて、車いすバスケをやったことがあって。あと、けがをして校内を車いすで移動していた時期もあったんです。その時の感覚があったのか、あっという間に乗りこなして、先生にすごく褒められました。今回、また車いすに乗ってみて、あらためて気付けたこともありました。街中は意外と段差があって、バリアフリーにちゃんと整備されていないところが多いんですね。車や自転車が通ると怖いですし、下り坂もブレーキをかけながら操縦するのは難しかったです。

――作品のオファーを受けた時のお気持ちは、振り返っていかがでしたか?

中条 最初は「どうして私にこの役がきたんだろう」と、すごくプレッシャーを感じました。すごく難しい役どころで、本当に私にできるんだろうか、と。でも、演じていく中で車いす指導の先生やカヌーの先生と話して、車いすの人の気持ちを実際に体験していくうちに、私の中で覚悟ができていきました。先ほど言ったように、車いすは重心がすごく低いので、自転車が目の前を通るだけですごく怖いんですね。カヌーはもちろん難しいのもありますが、カヌーもパドルも値段が高く、続けていくのも大変だそうです。今ではこの作品をやったからには、車いすで生活している人たちの気持ちや、パラリンピック競技をきちんと伝えていきたいし、皆さんにもっと知ってもらいたいと思っています。

――陸上選手だった遥は“孤高の選手”というイメージで、車いす生活を送り始めた頃まで全く笑顔を見せません。そこからカヌーを始め、失意を乗り越えだんだん笑うようになっていく。遥の成長していく姿が印象的です。

中条 本当に(笑)。最初は“ザ女王”と呼ばれるのに値する人で、「私はうまいし」というのが前面に出ていたすごく嫌なやつでしたよね(笑)。でも、私はその最初のシーンはすごく大事だと思っています。スポーツ選手を始め、何事も頑張っている人は“孤独”という感じがするんですよね。自分との戦い、自分がどれだけ頑張れるかということ。遥も今まで自分一人で戦ってきたというような気持ちがあったと思うんです。

事故にあって、カヌー教室の先生からカヌーを勧められて遥が怒るシーンがありますが、陸上が生きがい、自分の全てとして生きてきた遥は、事故で全てを奪われた気がして、「カヌーを始めてみたらどうだ」と言われても、「分かった。カヌーをやる」とは簡単にはならない。陸上が全てだと思っていたからこそ、遥の孤独感がすごく描かれているシーンなんじゃないかなと思います。

でもカヌーをやることで、カヌー教室の子供たちが話し掛けてくれて、自分一人で生きてきたわけじゃなかったということにちょっとずつ気付かされて、周りの人と一緒にみんなで生きていこう、みんなで支え合って生きていこうっていう前向きな気持ちになっていく。そういう遥の成長を感じられる演出になったので、やっぱり、最初の“ザ女王”のシーンもすごく大事だったんだなと思います。

――「陸上をやっていた時は、全部自分だけでやっていたのか?」というような、心に刺さるシーンやセリフが多くあります。

中条 私もそのせりふは印象的です。私自身も何でも一人でやっちゃうタイプなので、母とけんかしたときも、「一人で生きてきたみたいな顔をして! あんた一人で生きてきたんちゃうでー!」ってよく怒られていたので(笑)、今になって母が言っていた意味が分かりますね。

確かに人って大人になると何でもできるけど、赤ちゃんの時はギャンギャン泣いていたし、子供の時は人に迷惑をかけたし、それを経て大人になったということは周りの人に助けられて生きてきたわけであって。人間はみんな一人じゃ生きられないから、迷惑をかけるのも当然だし、逆に今まで与えられたものを返すこともできるのが人間だと思うので。というのを私自身もそのセリフで考えさせられました。

それは特に私たちの年齢の人は当てはまる人がいるんじゃないかなと思います。みんな「自分は一人だ」と思ってしまうこともあると思うんですけど、そう思っているのは自分だけで、いつでも「助けて」って言ったら周りに助けてくれる人がいるんですよね。

――カヌーの話に戻ると、カヌーも一人でプレーしますが、決して一人じゃないということですね。

中条 そうですね。競技中は一人ですけど、遥は下半身が動かないから、乗せてもらわなければならない。そもそもカヌーに乗る時点で人に助けてもらっているというのもありますが、水の上にいくと健常者もそうでない方もいるので、みんなと同じ気持ちになって戦えるんです。遥を演じていて、水の上は開放的な気分になれる場所だったなと思うし、常に見てくれる方も周りにいるので、一人という感じはしなかったです。

――この作品に出演する前と後で、障害を持つ人に対する気持ちに変化はありましたか?

中条 撮影に入るまで、車いすの方や下半身が動かなくなった方の映像を見て動きを勉強させてもらったり、車いすの先生に、自分が車いすになった時にどう思われたかを直接聞くことができて、その気持ちを知れたことはすごく良かったです。それまでの私は、障害を重いもの、悲しいことと捉えていたんですけど、映画のモデルになったパラカヌー選手に実際にお会いした時、「私にとってこれが強み」と、障害を“個性”として捉えていることをおっしゃっていたのに衝撃を受けました。障害を持っている方は大変なのではないかと思っていること自体が恥ずかしいなと感じるくらい、皆さん明るくて前向きに過ごされていて、自分が思っていたのとは全く違うんです。これまでは街で障害を持つ方を見掛けたら助けてあげなければと思っていたんですけど、皆さん結構自分でできることも多いですし、もし助けてほしいと思っている方がいたら、すっとお手伝いができるようになれたらいいな、と見方が変わりました。

――この作品に関われて良かったと思うことは?

中条 全てここでしか経験できないことだったと思います。パラスポーツのこと、障害を持つ方のことを知れて、すごくいい経験だったと思います。



パラリンピックを少しでも多くの人に見てもらえるように

――ここからはご自身のオリンピック・パラリンピックの思い出について伺います。印象的なスポーツはありますか?

中条 小さい頃は北島康介さんがメダルを取った瞬間や、荒川静香さんのイナバウアーとかを家族で見ていたのを覚えています。選手の方もすごく努力されてきたんだろうなと思いますし、やっぱり日本が勝つとうれしいですね。でも、父がイギリス人なので、イギリス対日本の試合は、父がイギリスを応援して、母が日本を応援するので、私はどちらを応援していか悩みます(笑)。都合のいい方を応援しがちですが…、でも、日本を応援しています!

――東京2020オリンピック・パラリンピックで注目する競技はありますか?

中条 もちろんカヌーは見るつもりですし、皆さんにも見てほしいです。今大会から、カヌーの横に浮き具を付けて漕ぐ競技も加わったので、カヌー全体が盛り上がっているんです。延期になったのは残念ですが、瀬立モニカさんのレースもぜひ会場に行って生で見たいと思っています。

――他に気になる競技はありますか?

中条 私自身、学生時代にバドミントンをやっていたんですが、日本はバドミントンが強いですよね。桃田賢斗選手に注目しています。それこそパラリンピックのバドミントンも今大会から増えたので、そちらも見たいです。

――最後にパラアスリートへメッセージをお願いします。

中条 私自身は、東京2020オリンピック・パラリンピック、両方見ようと思っています。この作品に関わらせていただいたからには、パラリンピックも少しでも多くの人に見てもらえるようにサポートできたらいいなと思います。頑張ってほしいと思いますし、皆さんのプレーを楽しみにしています。

取材・文=﨑山瑠美子/写真=伊東武志
スタイリスト=上田リサ(HITOME)/ヘアメイク=山口朋子(HITOME)

映画「水上のフライト」11月13日(金)公開
体育大学に通う、学生選手権で無配の走り高跳びの選手・藤堂遥(中条あやみ)。オリンピック強化選手への道も約束されている有望選手で、彼女も当然のように世界を目指していた。雨が降り出したある日、遥は車に追突され、命は助かったものの、下半身に麻痺を抱えて生きていくことになる。走り高跳びの選手としての夢は絶たれ、もてはやしていた後輩や記者たちも遥から離れていく。遥は心配する母・郁子(大塚寧々)へ苛立ちをぶつけることもできず、次第に心を閉ざしていく。そんな中、亡き父の親友でカヌー教室を開く宮本(小澤征悦)が、遥をカヌーに誘う。とある運河に連れてこられた遥は、宮本の元に集まるブリッジスクールの子供たち、そして、ブリッジスクール出身のエンジニア・颯太(杉野遥亮)と出会う。家庭の事情を抱えていたり、不登校で学校に居場所を見つけられない子供たちや颯太が、車いすの自分にも偏見を持たずに接してきたことから、遥は次第に心を開き始め、スポーツとしてのパラカヌーに目覚めていく。
https://suijo-movie.jp/




中条あやみ(なかじょう・あやみ)

1997年2月4日生まれ。2011年、女性ファッション誌「Seventeen」の専属モデルオーディションで、新川優愛、坂東希、橋爪愛と共にグランプリに選ばれる。2017年から「CanCam」の専属モデルとして活躍中。女優としては2014年に映画「劇場版 零~ゼロ~」で映画初出演にして初主演を果たす。映画「セトウツミ」「ライチ☆光クラブ」(共に2016年)、「チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~」「覆面系ノイズ」(共に2017年)、「3D彼女 リアルガール」「ニセコイ」(共に2018年)、「雪の華」(2019年)、ドラマ「白衣の戦士!」(2019年日本テレビ系)など、出演作多数。