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連載 私のオリンピック・パラリンピックの思い出

岩渕真奈(アスリート)

なでしこジャパン(サッカー女子日本代表) に選出され、自身初めての代表10番を背負うことになった岩渕真奈さんの著書『明るく 自分らしく』(KADOKAWA)が好評発売中。本連載第4回は番外編として、岩渕さんの初著書となった本作から、オリンピックへの思いを抜粋してご紹介します。

第四回・番外編 明るく 自分らしく

2021/06/30


わずか14歳でトップチームデビューを果たした岩渕さん。海を渡り、ドイツやイングランドでのプレー。度重なるケガに悩まされたキャリア。思い描く引退後の第二の人生……。若くして“日本の顔”になった岩渕さんが初めて語る「サッカー」と「生き方」、そしてオリンピックに対する思いとは?

東京生まれ、東京育ちの自分にとっては特別な大会です

14歳でなでしこリーグにデビューしたわたしも、気がつけば28歳。これまでのサッカー人生を振り返ると、いろいろなことがありました。
男の子の中にひとり入って、地元のクラブでサッカーを始めたこと。中学生からメニーナ(日テレ・ベレーザの下部組織)に入って、すぐにベレーザに選ばれたこと。長くプレーしたベレーザからドイツに渡り、帰国してからINAC神戸レオネッサ、さらにはイングランドでプレーしたこと――。

FIFA U-17ワールドカップで初めて世界大会に出て、MVPをもらいました。このときから、わたしの人生は大きく変わりました。
2011年にドイツワールドカップで優勝し、2012年はロンドンオリンピックで準優勝。2015年のカナダワールドカップでも準優勝し、なでしこジャパン、女子サッカーが右肩上がりの成長曲線を描く時代を体験させてもらうことができました。
 
でも過去を振り返ると、なでしこジャパンの一員として「チームに貢献できた!」と胸を張って言えたことは、ほとんどありません。
度重なるケガで、満足なコンディションで世界大会に出たことはなく、監督が佐々木則夫さんから高倉麻子さんになってしばらくしてから、ようやくそう思えるようになったぐらいです。
なでしこジャパンに16歳から選ばれ続け、ドイツやイングランドでもプレーしました。経歴だけを見ると、順風満帆のサッカー人生のように見えるかもしれません。
実は全然そんなことはなくて、楽しいこともありましたが、同じぐらい苦しいこともあったサッカー人生でした。
 
その中で胸を張って言えるのは、自分らしさを忘れずに、チャレンジを続けてきたことです。
メニーナ、ベレーザでプレーしたときは周りが大人ばかりで、ドイツ、イングランドでも、常に身体の大きな相手と戦ってきました。
何度ケガをしても、周りの助けを借りながらリハビリに励んで、オリンピックやワールドカップにチャレンジしてきました。
わたしがなでしこジャパンに選ばれるようになってから、出場権を獲得したオリンピック、ワールドカップにすべて出場していることは、自慢できることかなって思います。
 
そして2021年7月、東京2020オリンピックがあります。東京生まれ、東京育ちの自分にとっては特別な大会です。



年齢を考えても、東京オリンピックが最後のオリンピックに

2020年は東京オリンピックの年でしたが、ご存じのとおり、開催延期になりました。ひとりのアスリートとして「大会延期」の報を聞いたときは、残念な気持ちが湧いてきました。
オリンピックが2020年に東京で開催されることになったときから、わたしにとっては「東京オリンピックで金メダルを獲れたら、サッカーをやめてもいい」と思えるぐらい、大きな目標になっていました。
理想としては「自国開催で金メダルを獲って、サッカー選手を引退」です。現実的ではないかもしれないけど、それを理想の去り際に描くぐらいにはイメージしていました。

中止ではなく延期になって、まだよかったと思いましたけど、「本当に開催できるの?」とずっと思っていました。それは、わたしたちアスリートだけではなく、日本のみなさんも同じ気持ちだったと思います。
オリンピックは目標にしていた大会でしたけど、コロナ禍で大変な思いをされている医療従事者の方々の気持ちを考えたら、「オリンピックやりたい、楽しみ」と言うのはどうなんだろうと考えたこともありました。

新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年3月頃から、試合も大会も次々に中止に追い込まれ、なでしこリーグも開催のめどが立ちませんでした。全体練習ができず、送られてきたトレーニングメニューに取り組む日々。いつ試合ができるかもわからない状況ではトレーニングにも身が入らず、心は宙ぶらりんでした。
アスリートにとって、オリンピックが1年延期することは大きな意味を持ちます。

わたしは2021年3月で28歳になりました。サッカー選手としての能力を考えると、このくらいの年齢がギリギリで、1年という時間が大きな意味を持つ年齢の人もいます。実際に、年齢的な面で悩みを抱えながら、オリンピックに向かってがんばっている選手もいたので、自分はまだ恵まれているほうなのかなと思ったこともありました。

2021年7月にオリンピックが開催される方向で進んでいますが、1年延期になったことで、個人として成長できている実感はあります。イングランドに移籍して、海外の選手とプレーする中でつかんだ手応えもあります。

年齢を考えても、東京オリンピックが最後のオリンピックになると思っています。サッカー選手としてのキャリアは80、90%ぐらい来ていると思っていて、東京オリンピックの次の目標は、2023年のワールドカップ(オーストラリア、ニュージーランド共催)。2023年までなでしこジャパンの主力として試合に出て、できそうな手応えがあれば、2024年のパリオリンピックを目指すかもしれません。
選手としてのピークはいつだろうと考えたときに、周りの選手を見ても、30歳ぐらいかなと思ったんです。だから2023年以降、自分が現役でいることは、あまり想像できません。

4月の2試合は、わたしにとって1年ぶりのなでしこジャパンでした。
まず感じたのが、「日本人と一緒にサッカーができてうれしい」ということ。同じ日本人なので考え方も似ていますし、協調性もあります。もともと長く一緒にやってきた選手たちなので気が利くというか、試合中も「そこにいてくれてありがとう」みたいな安心感があります。もうちょっとゴールに向かおうよと思うときもありましたけど、それも含めて日本人だなって感じがしました。
1年ぶりのなでしこジャパンだったので、選手の顔ぶれも結構変わっていました。1年でこんなに変わるんだと驚きましたね。初選出、初出場の選手もいて、1年前であればメンバーに入っていなかった選手が選ばれているので、オリンピックが延期になったこの1年って、いろんな意味で大きな影響があったんだなと感じました。

チームとしても、成長した姿を見せることができたと思います。国内組は事前に長期間の合宿をして、戦術や約束事が積み上がっている印象を受けました。その様子を見て、海外でプレーしていた自分も、もっとがんばらないとって気持ちになりました。
パラグアイ、パナマと2試合してみて、この1年間で得たもの、積み上げられたものはあると、強く感じました。自分としては、ゴールに絡むところが高倉さんに期待されていると思うので、その部分をもっと高めていきたいです。



なでしこジャパンの長所、チームとして戦う部分を発揮したい

振り返ると、なでしこジャパンに選ばれるようになってから、オリンピックやワールドカップにベストコンディションで臨めたことは一度もありません。今回の東京オリンピックは、ケガさえなければいままでで一番いいコンディションで挑めると思うので、すごく楽しみです。コロナのこともあるので、気を抜かずに本番まで一日、一日を大切に過ごしたいと思っています。
 
2021年4月21日、東京オリンピックの組み合わせが決まりました。日本はイギリス、カナダ、チリの3カ国と対戦します。
正直、どの相手であっても、厳しい戦いになると思います。中でもイギリスは個人個人を見ると、ちょっと歯が立たないのではと思うぐらい、強烈な選手がそろっています。わたしと同じイギリスでプレーする選手がほとんどなので、顔と名前もわかりますし、特徴も把握しています。チェルシーやマンチェスター・シティ、アーセナルなどの選手と試合ができて楽しみな反面、恐怖心がないといったら嘘になります。それくらいの力が、いまのイギリスにはあります。

ただ、イギリスの監督はマンチェスター・ユナイテッドの選手だった、フィル・ネビルさんが長くやっていたのですが、2021年1月に、ベッカムさんがオーナーを務めるインテル・マイアミの監督に就任したんですね。だから、新しい監督のもとでチームを作っている最中だと思います。
監督が交代して時間がない中、東京オリンピックを迎えるので、組織面で付け入る隙はあると思います。イギリスの強烈な個に対して、なでしこジャパンの長所であるチームとして戦う部分を発揮したいです。

個人的には、サッカー選手として成長したいと思って移籍した国と試合ができるのは、素直にうれしいです。アストン・ヴィラでのシーズンは苦しいことも多かったですが、それもすべて意味あるものだったと証明するためにも、これまでの経験を活かしてプレーしたいです。
イギリスと対戦することが決まったあとに、ヴィラのコーチから連絡をもらいました。「チームとしてはイギリスを応援するけど、マナのことも応援するからね」って。その人たちに「どう? すごいでしょ」って言えるぐらいの結果を残したいです。

オリンピック初戦の相手はカナダです。2019年に親善試合で対戦して、4対0で勝ちました。でも、そのときからチームも変わっていると思うので、油断はできません。イギリスが強敵なのは間違いないので、決勝トーナメントに進むことを考えると、カナダ戦はすごく重要な試合になると思います。
3戦目の対戦相手、チリに関しては未知数な人がほとんどだと思います。チリにはパリ・サンジェルマンでプレーするGKクリスティアナ・エンドラーがいて、身長が180cm以上あります。すごくいい選手で、リヨンとの試合で好セーブをしているのを見ました。点を取るためには破らなければいけない相手なので、しっかり準備して試合を迎えたいです。
わたしたちは、2019年のフランスワールドカップで南米のチーム(アルゼンチン)に引き分けています。国際大会に、簡単に勝てる相手はいません。どこも強豪ばかりなので、気の抜けない試合になると思います。

これまで、たくさんの国際大会を経験してきましたが、勝ち上がるために必要なのは「チームの一体感」です。ドイツワールドカップ、ロンドンオリンピック、カナダワールドカップなどの結果を残した大会を振り返って、そう思います。勝つことに意識を向けて、ワンプレーに対するこだわりをみんなが持てるチームになれたら、結果はついてくると思います。

前回のロンドンオリンピックを経験した選手は、わたしとサキ(熊谷紗希)、サメちゃん(鮫島彩)の3人になってしまいました。
年齢が上のほうになって思うのは、自分が澤さんや宮間さんたちにしてもらったように、若い選手たちが自分のよさを発揮できる環境を作ってあげられたらなということ。自分がそうしてもらったからこそ、ありがたみもわかるんです。口で言うだけではなく、周りを助けられる、頼ってもらえる選手になりたいです。
若い頃は、自分が点を取って活躍することが最優先。試合結果は二の次でした。いまは自分のプレーが悪くても、試合に勝つことが一番大事だと思っています。試合に勝つことに対して、関わる全員がどれだけ熱を持って取り組むか。それがオリンピックやワールドカップのような大きな大会で勝ち進むために、必要なことだと思います。

でも本心を明かすなら、自分が活躍して、試合に勝ちたいです。その気持ちは、サッカーを始めた頃から変わらず持ち続けています。

※本コンテンツは、岩渕真奈の著書『明るく 自分らしく』からの抜粋です。

目次
CHAPTER 1
サッカー人生の始まり
――14歳でトップチームデビュー

CHAPTER 2
初めての海外移籍
――周囲の目と環境の変化

CHAPTER 3
世代交代
――「責任」と「ケガ」

CHAPTER 4
二度目の海外移籍
――異なる環境に身を置く大切さ

CHAPTER 5
プライベート
――サッカーでも私生活でも自分らしく

CHAPTER 6
東京オリンピック
――夢の舞台とその先にあるもの

CHAPTER 7
夢を叶える力
――好きこそ物の上手なれ

取材・文=鈴木智之/写真=大木雄介


岩渕真奈(いわぶち・まな)

1993年3月18日生まれ、東京都出身。アーセナル・ウィメンFC所属。ポジションはフォワード。小学2年生のときに関前SCでサッカーを始め、クラブ初の女子選手となる。中学進学時に日テレ・メニーナ入団、14歳でトップチームの日テレ・ベレーザに2種登録され、2008年に昇格。2012年よりドイツ・女子ブンデスリーガのホッフェンハイムへ移籍し、2014年にバイエルン・ミュンヘンへ移籍、リーグ2連覇を達成。2017年に帰国しINAC神戸レオネッサへ入団。2021年1月よりイングランド FA Women's Super Leagueのアストン・ヴィラLFCへ移籍。2021-2022シーズンからアーセナル・ウィメンFCでプレー。日本代表では、2008年FIFA U-17女子ワールドカップでゴールデンボールを受賞、世間からの注目を集めるようになる。以降、2011年女子ワールドカップ優勝、2012年ロンドンオリンピック準優勝、2015年ワールドカップ準優勝、2019年ワールドカップ・ ベスト16に貢献。公式アプリ「MANA IWABUCHI」では岩渕真奈本人が日々の生活やサッカー観についてブログや動画で発信中。


関連書籍
明るく 自分らしく
明るく 自分らしく

発売日:2021年6月30日(水)
定価:1,650円(本体1,500円+税)
判型:四六判
ページ数:192P

書籍詳細

関連書籍
東京2020オリンピック公式ガイドブック
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発売日:2021年6月30日(水)
定価:1,980円(本体1,800円+税)
判型:A4正寸
ページ数:190P

書籍詳細